私は暑い時期に熱い食べ物を食べることが大好きだ。
その日も熱々のカレーうどんを定食屋で食べようとしていた。
店のオヤジが汗をかきながらカウンターに差し出したそれは地獄の釜の如く赤く煮えたぎっていた。
しかし私はここで自身が重大な過ちを犯したことに気がつく。私は少しの穢れも知らない処女雪の如く白いシャツを着ていたのである。ここでもし私が見に纏っている羽衣を汚すような事になれば服の汚れという範疇を越え人生の汚点になると言っても過言ではない。このような事態を私は絶対に避けたいのである。
うどんの麺は恋人との最初の接吻をするかの如く慎重に震えながら私の唇へと近づいてくる。麺は白い湯気を静かに立たせ呼吸をしていた。私はそれを拒むこと無くゆっくりと自らの体内へ迎え入れた。半分ほど食べ終わった頃、私はそれとの距離を置くために一度水を飲んで平静を取り戻そうとした。
そしてしばらく時間をおき再びそれと対峙した。私たちは初夜を迎えた夫婦のように緊張と少々の恥じらいをもち今までしてきたことを繰り返すのであった。
ついに最後の一口となった。
私はのこり僅かになったそれを箸でつまみ上げ、安堵しため息を一つついた。
それが運の尽きであった。
瞬間、箸からそれが滑り落ちた。
カレーにまみれた麺は箸によってその艶やかな白を取り戻した。
私はもう二度と取り戻せぬ潔白を失い店を出た。